チャーンレートとは? 営業でも重要な理由と、改善するポイントをご紹介
「営業成績を改善するため、チャーンレートを改善する」
そんな指示をされてしまい、どのような手を打てばよいか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
チャーンレートは、定期的に料金を受け取るサービスにおいて重要な指標。改善により、収益を大きくアップさせることが可能な一方、チャーンレートが高いままの場合は、新規顧客を獲得しても既存顧客が減少し、収支が悪化する事態になりかねません。
本記事ではチャーンレートの重要性と計算方法、改善のポイントを解説します。
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チャーンレートは解約率を示す指標
チャーンレートは月次など、一定の期間における解約率を示す指標です。SaaSなど「所有せず、必要な期間だけ利用するサービス」の台頭にともない、収益を確保する重要なポイントとして注目度が高まっています。「顧客離脱率」「退会率」とも呼ばれています。
期間は、月次で見る方法が広く用いられています。目安は月次で3~9%といわれており、B to C向けサービスのほうが高くなりやすい傾向があります。一方で優良企業が提供するサービスでは、2%未満となる場合も珍しくありません。
目標値を定めるならば、スタートアップ企業の場合は月次で3%。大手企業を主な対象とする場合は月次で0.5~1%がひとつの目安となります。
チャーンレートが重要といわれる5つの理由
チャーンレートが重要な理由は、5つに分けられます。それぞれのポイントについて、詳しく確認していきましょう。
新規顧客の確保にかかる労力は既存顧客を守る場合の5倍必要
1つ目の理由として、新規顧客の確保には既存顧客を守る場合と比べて5倍の労力が必要、という点が挙げられます。
新規顧客の獲得がどれほど大変か実感する営業職の方も多いと思いますが、その苦労を裏付ける数字です。もちろん、ときにはそれ以上の労力を要する場合もあり得ます。
そもそも新規顧客が増えても既存顧客に次々と逃げられるようでは、シェアも収益も上がりません。この点でチャーンレートの低下は、重要なポイントに挙げられます。
サービスがユーザーにとって必要かどうかをチェックできる
いくら解約のハードルが低いサービスでも、ユーザーにとって必要であれば解約する方は少ないもの。高いチャーンレートは、以下のいずれかに当てはまることを意味します。
- そもそも、提供されているサービスを求めていないユーザーが多い
- 競合他社が、より優れたサービスの提供を始めた
- より安価で利用できるサービスがある
チャーンレートは、貴社のサービスがユーザーにとって必要かどうかをチェックできる指標です。もし高い値ならば理由を分析することにより、顧客に求められるサービスづくりに役立てることができます。
SaaS型サービスでは短期間で解約されると損失に結びつく
SaaS型サービスのなかには初期費用が必要なく、月次や年次の利用料だけでよいものも多くあります。これは、パッケージソフトに代表されるオンプレミス型のサービスと大きく異なるポイントです。オンプレミス型のサービスでは、契約時に多額のライセンス料やハードウェアの費用を要するためです。
一方でシステムの開発コストは、SaaS型でも劇的に下がるわけではありません。もし短期間で解約されると、収入が減少してしまいます。場合によっては、1ユーザー当たり数百円の収入しか入らない可能性もあります。
このようなユーザーが増えるとトータルでは損失になるため、ユーザーをつなぎ止めてチャーンレートを下げる工夫が求められます。
月次や1年程度では小さな違いでも、何年もたつと成長速度に大きく影響する
チャーンレートを下げる施策がうまくいくことは、シェアの拡大や企業の成長に直結します。一例として、毎年の成長率を4%から7%に拡大できた企業の例を考えてみましょう。業績は以下の通り向上します。
成長率 | 4% | 7% |
3年後 | 12.5%上昇 | 22.5%上昇 |
5年後 | 21.7%上昇 | 40.3%上昇 |
10年後 | 48.0%上昇 | 96.7%上昇 |
業績を2割向上させるためには、成長率が4%の場合で5年かかる一方、7%の成長率ならば3年で済みます。また10年間の上昇率は、年7%のほうが年4%の2倍。月次や年単位では小さな違いでも、年を重ねると成長速度に大きく影響します。
加えてチャーンレートが15%以上の場合は、2年程度で成長が頭打ちになることにも注意が必要です。継続した業績向上のためにも、チャーンレートを下げることは重要です。
LTVの上昇にはチャーンレートの低下が欠かせない
チャーンレートは、収益ベースのLTV(顧客生涯価値)にも影響する指標。以下に示す方法で算出できます。
LTV = 顧客当たりの平均MRR(月次収益) ÷ 1月当たりの解約率
上記の通り、LTVは解約率と反比例します。もしLTVを上げたいならば、チャーンレートを下げることが重要。ここでは2つの例を比較してみましょう。
顧客当たりの平均MRR | 1月当たりの解約率 | LTV | |
---|---|---|---|
ケースA | 10,000円 | 1% | 1,000,000円 |
ケースB | 10,000円 | 2% | 500,000円 |
ケースBではケースAよりも解約率が1%上がっただけですが、LTVは半減。一方で解約率を少し下げただけでも、LTVを大幅にアップさせる場合があることがおわかりいただけたことでしょう。解約率が低い場合でも、さらに解約率を下げる努力が必要です。
チャーンレートは大きく4種類 —計算式も解説—
ひとくちにチャーンレートといっても、大きく分けて4つの種類があり、それぞれの意味も異なります。ここではそれぞれの意味に加えて、どう算出するかという点も解説していきます。
カスタマーチャーンレート
カスタマーチャーンレートは、どれだけの顧客が解約したかをチェックする指標です。顧客数に着目することがポイントで、以下の方法で算出されます。
解約した顧客数 ÷ 前月の顧客数
例えば1万の顧客があるサービスが、当月中に120の顧客を失った場合の値は、1.2%と算出されます。
アカウントチャーンレート
法人向けのサービスなどでは、1つの企業で複数のアカウントを持つ場合もよくあります。例として、10アカウントを保持する企業の例を考えてみましょう。顧客の数を基準として計算する「カスタマーチャーンレート」で見た場合、以下に挙げる3つのケースの値はいずれもゼロとなります。
- 継続して保持
- 1アカウントを解約
- 1アカウントを残して解約
一方でサービスの運営会社から見ると、1)以外は減収であり、2)と3)の減収幅は大きく異なります。そのため顧客数の代わりにアカウント数を用いて算出する「アカウントチャーンレート」で見る方法もあります。算出方法は、以下の通りです。
解約したアカウント数 ÷ 前月のアカウント数
上記の式にあてはめた結果は、2)の場合は10%、3)の場合は90%です。
グロスレベニューチャーンレート
ここまでは顧客やアカウントの数に着目した指標を紹介しましたが、レベニューチャーンレートでは減収額に着目することが特徴です。グロスレベニューチャーンレートは、以下の式で求めます。
当月に減収となったMRR ÷ 前月のMRR
解約だけでなく、下位プランへの変更による差額(ダウンセル)も数値に影響することに注意が必要です。
なお算出された値の最低値はゼロであり、解約も下位プランへの変更も皆無であった場合にのみ該当します。従って、マイナスの値にはなりません。
ネットレベニューチャーンレート
顧客のなかには解約を望む方もいる一方、上位のサービスに変更したり、他のサービスを追加したりする場合もあります。ネットレベニューチャーンレートは解約等による減収分とともに、既存顧客からの増収分も反映される指標です。このため、実際の減収・増収額に基づいた値となることが特徴。以下の方法で計算できます。
(解約やダウンセルなど、当月に減収となったMRR – アップセルやクロスセルによる増収額) ÷ 前月のMRR
算出された値は、マイナスの場合もあります。
それぞれのチャーンレートには、適した用途がある
ここまで4種類のチャーンレートを紹介しましたが、各々には以下の通り、適した用途があります。
指標 | 適した用途の例 |
---|---|
カスタマーチャーンレート | BtoCのサービスの場合。または利用している法人の数に着目したい場合 |
アカウントチャーンレート | 実際に利用しているアカウント数をもとに判断したい場合 |
グロスレベニューチャーンレート | 既存顧客の離脱による損失額に着目したい場合 |
ネットレベニューチャーンレート | 実際の損失額に着目したい場合 |
すべての状況に適する万能な指標はありません。正しく判断するためにも、目的に応じた選択が重要です。
チャーンレートを改善する4つのポイント
業績を上げるためには、ぜひともチャーンレートを下げたいもの。改善に向けて押さえておきたいポイントは、4つに分けられます。しっかり確認し、事業運営に活かしていきましょう。
カスタマーサクセスを意識し、積極的に提案を行う
そもそも顧客が貴社のサービスを選ぶ理由には、以下の項目が挙げられます。
- コストを削減したい
- 業績をアップさせたい
- 生活をより便利にしたい
いずれも「今よりも良い状態」を目指す目的で使っているわけです。不具合なく円滑に使えることは重要ですが、利用するきっかけではありません。
このため既存顧客の満足度を高め、事業の成功やより良い生活につなげる「カスタマーサクセス」を意識することが重要です。利用状況の調査やヒアリングを行った上で、解決策やより良いサービスの提案を積極的に行いましょう。これにより顧客ロイヤルティが高まり、チャーンレートの改善につなげることが可能です。
なおカスタマーサクセスについては、以下の記事もご参照ください。
競合に勝てる魅力的な料金プランとサービスを提示する
「お得」というキーワードは、個人・法人に関わらず、どの利用者も重視するポイントです。単に安いだけでなく、提供されるサービスに対して安いという印象を与えることが重要。このため、競合に勝てる、魅力的な料金プランとサービスの提示が求められます。
重視すべきポイントは「とにかく機能が多いこと」「とにかく安いこと」ではありません。利用者が求める機能をリサーチし、必要な機能を搭載しつつお得な料金で提供することが重要です。
解約した理由を分析し、サービスの改善につなげる
解約した理由を分析し、サービスの改善につなげることも重要なポイントに挙げられます。解約手続きの際にアンケートを用意し、記入してもらう手法は代表的なもの。選択肢を工夫することで、解約した方の思いに近い情報を入手することが可能です。
しかし、解約する前には何らかの兆候が現れているもの。一例として、以下の項目が挙げられます。
- 利用頻度や利用時間が下がった
- サービスやサポートに対する満足度が低い
- サービスに対するフィードバックに、良くない内容が増えている
なかには「SNSで悪い情報が拡散されている」といったものもあります。これらはいちいち利用者に聞かなくても、チェックできるもの。さまざまな角度から分析し、サービスの改善につなげることが重要です。
トラブルや不満が報告されたときこそ真摯に対応する
トラブルや不満の報告は悪い情報ではあるものの、最悪の状況ではありません。顧客は以下の思いをもって、貴社に報告し対応を求めています。
- 発生している問題を、なんとか解決したい。対処してもらうか、有用な情報を提供して欲しい
- 貴社に問題を報告したら、しっかり対応してもらえるものと信じている
とりわけ、2)の認識は重要です。なぜなら事前に「問い合わせしてもろくな対応をしない」「かえって状況が悪化した」ということがわかっているならば、顧客はわざわざ時間をかけて問い合わせをしないもの。特にSaaS型のサービスならば、解約に直結することでしょう。
このためトラブルや不満が報告された場合こそ真摯に対応し、解決に導くことが求められます。成功すれば顧客から喜ばれることはもちろん、安心感と信頼を与えます。顧客満足度の向上にもつながることでしょう。
加えて、継続率のアップや他の顧客に推薦することも望ましい効果として見逃せません。「グッドマンの第一法則」では以下の通り、不満や苦情に対して真摯に解決することの重要性を示しています。
不満を持った顧客のうち、苦情を申し立て、その解決に満足した顧客の当該商品サービスの再入決定率は、不満を持ちながら苦情を申し立てない顧客のそれに比べて高い
引用:NPO法人顧客ロイヤルティ協会・佐藤知恭「Goodmanの法則ーグッドマンの法則ー」:http://www.customer-loyalty.jp/goodman.html
トラブルや不満が報告された場合は、面倒に思ってしまいがちです。しかし、顧客をつなぎ止める重要なチャンスであるばかりでなく、対応によっては顧客ロイヤルティを高める効果も得られます。そのため、しっかり対応することが重要です。
ネガティブチャーンは好ましい状態のひとつ(ただし注意点も)
チャーンレートを解説する情報のなかには、「ネガティブチャーンを目指す」といったものもあります。「ネガティブ」という文言があるため良くない状態と思われがちですが、ネガティブチャーンは良い状態であることは確かです。
ただし、その他の指標をチェックすることなく、ひたすらネガティブチャーンを目標とする姿勢は好ましくありません。ここでは2つの視点から解説を行い、目指すべきポイントを確認していきます。
解約などによる損失よりも、既存顧客による収益が上回った状態
ネガティブチャーンとは、ネットレベニューチャーンレートがマイナスになった状態です。すなわち解約などによる損失よりも、アップセルやクロスセルなど、既存顧客による増収が上回ったことを示します。運営会社にとっては、良い状態といえるでしょう。
顧客の離脱による減収を打ち消して余りあることは、重要なポイント。このため、理想的な状態とされる場合もあります。
ネガティブチャーンになった後でも解約率を下げる努力は必要
ネガティブチャーンの状態になれば手放しで喜べるかというと、そうとは限りません。指標の値によっては、「より高い業績が見込めるにも関わらず、高い解約率が足を引っ張っている」とも解釈できるためです。
以下の2つのケースは、どちらもネガティブチャーンの状態です。しかしケースBは、さらなる改善が求められる状態といえます。
グロスレベニューチャーンレート | アップセルやクロスセルによる増収率 | |
---|---|---|
ケースA | 1.0% | 2.0% |
ケースB | 11.0% | 12.0% |
ケースBは、グロスレベニューチャーンレートがかなり高いことが特徴です。いわば「バケツに空いた穴をろくに修理していない」状態といえるでしょう。高い解約率が成長を阻んでいるとも解釈できます。
もしグロスレベニューチャーンレートをケースAと同じ数字にできれば、収益の大幅な改善が見込まれます。ネガティブチャーンの状態であっても手放しで喜ぶことなく、引き続き解約率の低下に努めることが重要です。
SFAをうまく活用することで、チャーンレートを分析しやすくなる
ここまで解説した指標は、SFAをうまく活用することで算出できます。一例として、以下の指標が挙げられます。
- 解約率
- 顧客ごとの収益(MRR)
- アップセル率
- クロスセル率
- 契約更新した顧客の割合
これらの指標から4種類のチャーンレートやLTVを算出し、適切な施策につなげることも可能です。利用中の、または検討中のSFAで、値を確認できる方法をチェックしておきましょう。
チャーンレートを下げ、収益と顧客ロイヤリティの向上を図ろう
チャーンレートを下げることで解約数が減少するとともに、継続して収益をあげることが可能です。SaaS型サービスにおいては初期投資額を回収するためにも、チャーンレートの低下はとても重要。
長年継続して利用する顧客が多くなれば、顧客ロイヤルティの向上も期待できるでしょう。加えて利用者当たりの収益も増やすことができれば、全体の収益アップも見込めます。
まずは事業の継続と発展のためにもSFAを活用し、チャーンレートを分析するところから始めてみてはいかがでしょうか。