
クロスセルとは何か? メリット/デメリットと具体的ステップ・成功事例について
営業管理職やマネジメントの皆さんは、マーケティング手法(営業手法)として過去耳にされたこともおありではないでしょうか?認知度の高い手法であるクロスセルをあらためて取り上げます。
現場寄りのマーケティング手法でもあるクロスセルを成功させる秘訣は、クロスセルを駆使する当事者(営業員)の深い理解が必要です。
今回はまだ取り入れてない企業には概要紹介から、既に採用されている企業には真に効果を上げるためにクロスセルの思考法や活用法や検証、この2つの視点でお伝えしたいと思います。
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クロスセルの概要とメリットを解説!

クロスセルとは?
クロスセルとは、既に提案や説明をしているメイン商品(またはサービス)に関連させてプラスアルファの上乗せ販売を実現させる営業手法のことを指します。
まずはクロスセルのメリット・デメリットから見ていきましょう。
クロスセルのメリット
クロスセルは上記の通り、メイン商品に関連させてその他の商品を買っていただく営業活動です。クロスセルがうまくいった場合の成果として、以下が挙げられます。
- 顧客契約単価の上昇
- 顧客から自社に対しての印象や認知度が向上
- リピートビジネスにつながりやすい
うまく活用できれば、より自社の売り上げに大きな貢献となることでしょう。
アップセル・ダウンセルとの違い
ここで、関連類義用語である「アップセル」と「ダウンセル」にも簡単に触れておきます。
アップセル
アップセルとは、商談中の一つの製品に対して販売単価を上昇させる販売手法です。
例えば、以下のような事例をアップセルと呼びます。
- ガラケーユーザーにプラスアルファのメリットを伝えてスマホに乗り換えてもらう
- 車購入を検討している方にプラスアルファのメリットを伝えて上位車種を購入してもらう
アップセルはお客様がメリットを感じなければ、ただの煩わしい販売員です。「押しつけではない」「あなたが得をするのでお伝えしています」の姿勢を忘れないように実施する必要があります。
ダウンセル
ダウンセルとは、商談中の一つの製品に対して、「とにかく買っていただくことを最優先」として販売単価を下げてでも注文を取りたい場合に使う手法です。販売単価を下げてでも受注したい事情がある場合に使われます。
主に、、、
- 競合企業があり、その企業に受注をさせたくない
- 自社製品に競争力がなくなってしまった
※次回付加価値のある製品が販売されるまで利益が少なくても良いからつなぎとめておきたい
同顧客とその他の取引で大きな売り上げがあるので、関係維持の「捨て商品」として
などが挙げられます。
いずれにしても、ダウンセルを行うのは自社にとって、戦略的に攻撃または防衛をしなければならない時に選択される手段です。
顧客あたりの売上単価アップ
上記メリットに重複しますが、お客様とのお取引総額が向上します。中長期的に見ても、クロスセルは以下の点から売上に貢献してくれます。
- 一回あたりのお取引金額の増加
- 認知度・満足度向上による、リピートしていただく可能性のUP
- 該当顧客からの紹介で、新規見込み顧客の質・精度が上がる
※自社との取引を満足していただいたお得意先からの紹介は精度が高いと言われています。通常の紹介より成約率の向上に貢献するのではと見ています。
クロスセル成功に重要な2つの前提条件

クロスセル実行には必須作業が二つあるのでご紹介します。以下の準備が不足すると、アクションが最大効果を産まない恐れがあります。
顧客情報の収集
貴社はクロスセルを実行したいお客様の事をどこまで知っていますか? その貴重な情報を営業とマーケ部門でどこまで共有できていますか?
少なくとも以下の内容を知っておく必要があります。
- 自社製品が採用された理由
- 自社の前に採用されていた企業とその理由
- その他競合となる同業他社の最新動向
- お客様が近い将来目を向けている分野
まずは顧客との関係を良好とすること、そこから得た情報を適切に顧客獲得のマーケティングと営業が情報共有されていることが望ましくあります。
情報収集ののちの分析
前述した項目に大きく関わってくると思いますが、何となくラッキーで注文をもらったお客様のことを営業マンは掘り下げようとしない傾向があります。
逆に自分がしっかり営業して獲得したお客様には思い入れもあり、自分のアプローチ内容、お客様の情報を事細かに覚えているものです。
営業が必死で取得した生身の情報がある顧客にはすぐにアクションをかけられますが、受け身で(ラッキーで)注文を取る事ができた顧客を効果的に攻めるためには「再分析」という準備が必要です。
顧客情報のバラツキを均質化してから活動をすれば、質の高いクロスセル活動になります。
クロスセルの具体的な始め方3ステップ(LWP)
それでは早速ですが、クロスセルの取り組み方を3ステップで解説いたします。
むやみやたらにクロスセルをするのでは効果は薄くなってしまいます。こちらで紹介する項目を意識すればだいぶ質の高いクロスセルが実施できるようになるでしょう。
手順1:LWP分析で顧客の状況を洗い出そう

顧客リスト(L)、これまでの顧客や自社の行動内容(W)、受注や訪問頻度(P)とし、 その3つの項目の頭文字を取った「LWP」と呼ばれる、 思考フレームワークがあります。
分析手法としてList(顧客リスト)、What(行動内容)、Pace(頻度)でマッピングして対象顧客を抽出するLWPというフレームワークがあります。 エクセル、もしくはスプレットシートなどを用いてこちらに記載する手順を実行してみましょう。
L>List(顧客リスト)
まずは対象となるであろう、顧客リストを洗い出しましょう。もれなく洗い出すことが鍵となります。
W>What(内容)
これまでの顧客の行動に対して顧客のポテンシャルはどうかをタグ付けしましょう。最低、大小2つのフラグ付けを実施しましょう。
P>Pace(頻度)
そして顧客との接点、頻度はどれくらいかを同じくフラグ付けしましょう。
手順2:フラグ付けが終わったらマッピングを

顧客リストを「行動内容」と「受注頻度」の要素を加味し、ランク付をし、整理をしましょう。マッピングの仕方は「拡大余地」「実績」の2軸。A~Dにそれぞれの顧客リストを割り当てましょう。
それぞれのカテゴリーの定義については以下の通りです。それぞれ対応の優先度を示します。
- A=実績も多く拡大余地もある
- B=開拓営業先候補
- C=現状維持が最優先
- D=ビジネスの余地が見込めない顧客
こちらの整理をすることによりどの顧客にアプローチすれば良いかが明確になります。
手順3:顧客の選定とアクションの立案
そしてマッピングした顧客を元にどの顧客へアプローチすればいいかを考え、アクションに落としましょう。手順としてはまずはAより攻め、同時に新たな顧客開拓のためBへと活動の幅を広めることが最善と言えます。
この図にて現実的な時間/リソース配分を計画しながら、顧客を選定することが大事です。この選定によって、結果が大きく左右されます。
NGな行動の例
もしマッピングをしないと、営業は拡大が見込めなくても、行きやすい所(C)に行ってしまいがちです。結果、売上拡大ができません。
ベターな行動の例
それでは行きずらいが(B)の顧客に機会を作りいってみたらどうでしょうか。売り上げ貢献に寄与しやすい行動であると推察できます。
ポテンシャルはあるが頻度は低いお客さんである場合は、何かしら別商材を差し込む提案に漏れがある可能性が高いです。
つまりはこの手法を採用することにより、
- やみくもに(または惰性で)営業活動を行って時間を無駄にする
- 顧客へのアクションバランスが偏っており、的確な活動ができていない
- お客様に適したアクションではないため、反響や引合いにつながる確率が低い
といった問題を解消する効果が見込めます。現在働き方改革に代表されるように、効率化を実施しなければいけません。確実なクロルセルを実施しましょう。
身近な企業から学ぼう!クロスセルのLWPごとの上手な例

ここでは、L,W,Pごとに身近にある成功例を列挙してみます。クロスセルはあらためて取り組む、というより「それが当たり前」として色々なところで取り込まれています。
L(顧客リスト)をうまく活用している企業例
- アマゾンなどネット通販ポータルサイト
- Eコマース業界のAIや傾向分析によるクロスセル
皆さんもネット通販ポータルサイトを見ていると、「この商品をご購入された方はこんなものも興味を持っています」のフレーズで関連商品がポップアップやサイドに表示された経験があると思います。
注文を検討しているタイミングで人手をかけずに売込が出来る、効率やコストがかからない点からも非常に素晴らしいクロスセルです。
W(行動内容)
Wに関してクロスセルの事例もごくごく身近なところにあります。
大型小売店
もっと原始的なクロスセルスーパーのレジ待ち列のガムやライターなどの陳列が良く思い出されます。消耗品の「買い忘れ」「どうしても必要なものではないが、あれば使う」ものをクロスセルしています。
ファーストフードチェーン店
ご存知の通り「ご一緒にポテトやドリンクはいかがですか?」というフレーズが良く聞かれます。原始的ではありますが、売上拡大、顧客単価上昇のためのクロスセルです。
紳士服販売
「スーツ1着ご購入で2着目半額!」というフレーズも良く聞きますね。こちらはアップセルとも言えますが、最近は関連商品(ネクタイ、靴、ワイシャツ)のラインナップを専門店に負けない水準に揃えて、「関連商品のディスカウント」を謳っている企業が増えてきています。
P(頻度)
Pに関しては以下の事例を挙げております。とても身近なところで何気なくクロスセル手法の取り入れがされています。
生活協同組合や総菜宅配業
食品や生鮮品を定期的に配達することで、定期的な顧客として囲い込むことができる業態です。これにより「毎週の顧客販売」を確実なものにしています。
毎週の発注用チラシに「旅行」「お中元」「保険」など関連の深いものから季節ものまでクロスセルを行っています。露出する人数には限りがありますが、確実に目を通してもらえるという意味でクロスセルの頻度を安定化できる事例と言えます。
LWPを上手に実施している企業例
次に、上記のフレームワークを包括的に実施して実績を残している企業事例のご紹介です。
キーエンス
まず真っ先に思い浮かぶのは泣く子も黙るキーエンスさんではないでしょうか。ご存知である方も多いと思いますが、現在製造業の中でトップクラスの高収益を上げる産業用オートメーション部品メーカーで、同様に製造業で社員の平均年収が日本一という点からも知名度を上げてきている企業です。
キーエンスはListに対してのアプローチ徹底度が素晴らしいようです。複数の事業部から同じお客様に対して営業活動を行います。
- 窓口部門となる汎用品事業部が定期的な訪問を行う
- お客様面談時に専門製品を扱う他事業部で売れそうな話題有無を必ず聞き取る
- 共有してもらった専門事業部はアプローチを完了したか、プロセスチェックが行われる
- 紹介した側に、紹介報酬と成約報酬が提供される
常に生きたクロスセルを実行し続ける組織の仕組みが素晴らしいです。
さらに感心するのは社内で公式にクロスセル活動が賞賛され、評価される仕組みを作り長きにわたって運用している点が高収益企業たる所以なのでしょう。
自動車販売会社各社
特にどの企業が、という事ではありませんが、ショールーム来店やWEB上で情報を取ろうとすると
- 現在載っている車名
- 購入した時期
- ユーザーからコンタクトした目的(買い替えか、セカンドカー購入か等)
- 購入予定時期
- 求める機能や車に対しての嗜好
などを必ず確認するアンケートやWEB登録フォームの入力を求められます。
それにより、車の販売会社はクロージングの時期、どの価格帯の車種を売り込むか、競合する他メーカーの車に対しての差別化などの戦略まで紐づいてくるデータベースを構築しています。
非常に効率よく売り込みを始められるのは必須項目であるアンケートにて顧客情報を効率よく収集し、リスト分析に活用している例と言えます。
成功要因は「営業のプロセス管理」を実行できているか否か

営業戦略と実行がしっかりしている企業は多数ありますが、成功要因と失敗のその境目はなんなのでしょうか?
大きく分けて2パターンありますが、成功の秘訣は「人にかかるプロセス実行の確認と検証」にあると言われています。
1:アナログ組織であっても、仕組みを作り徹底する
徹底的なルールと仕組み化にてそれを成し遂げます。前述のキーエンス社がそのモデルにも該当します。
2:MAツールやCRMなどを使って、人手を最小限にしながらアプローチをする
今マーケティング業界で採用が広がりつつある、マーケティングオートメーションの手法を取り入れて自動で実行する企業も増えてきました。
双方、組織でクロスセルを意識して仕組みを作り実行する、という信念は同じです。利用する手段やツールが何に基づいているかという違いだけです。
属人化させる前に仕組みでクロスセルを有効に組織内で文化として根付かせましょう。
顧客を知り、適切な訴求をしてクロスセルを!

ここまでクロスセルについてあらためて詳細各部まで解説してきました。まとめの意味であらためて骨子となる意味合いについて記します。
何度も書いて恐縮ですが、「売上の上乗せ」のために効率の良い営業手法です。特に2Bでは既存顧客の売り上げが80%とも言われています。
うまく活用すれば、新規のお客様を2件獲得するより
- 短い時間で
- 少ない労力で
売上の拡大を可能にします。
クロスセル成功には顧客を知り、提案に活かすのが重要
クロスセルを成功できるのは、顧客について詳しく把握ができている企業です。
その情報をもとに、何をクロスセルできそうか、どれだけ拡大できそうかの仮説を立てる必要があります。
把握するべき事項としては、、
- 顧客の自社業界製品(サービス)の購入総額
- 顧客の来年以降の景気動向
- 顧客の今後の投資計画
- 顧客の意思決定部門とキーパーソン
など、挙げればキリがありません。
営業担当として、自分がこのお得意さまから沢山売り上げをあげていい思いをしたいのであれば、「売り上げに関連する顧客情報」を出来る限り掴むことから始めましょう。
押し売りでクロスセルは成功しない
そしてあらためて言いますが、顧客は
- 自社(自分)のためを思ってオススメしてくれている
- 自社(自分)が得をできる
ことに限り、クロスセルを受け入れてくれます。
この感情を持っていただくには、ここまでの信頼関係の深さが強く影響します。
契約をしていない現時点でいい印象を与えられている確信がありますか?
営業担当としてキャリアが長ければ、その感覚は確かなものだと思います。
今回の思考フレームワークLWPができていてもその観点を忘れないようにしてください。
この記事をご覧になっている管理職やマネジメントであれば、部下を見極めるお力がお有りでしょう。営業員の関係構築力をあらためて確認し、クロスセルを行う素養が備わっているか確認してあげてください。部下のスキルが上がるだけでなく、あらためて営業組織全体が底上げされるために大変有益な検証活動になると思います。
皆様のクロスセル活動に少しでもお力になれていれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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よくある質問
Q1:クロスセルとは?
クロスセルとは、既に提案や説明をしているメイン商品(またはサービス)に関連させてプラスアルファの上乗せ販売を実現させる営業手法のことを指します。
Q2:クロスセルとアップセル、ダウンセルの違いは?
「クロスセル」がメイン商品に関連させて上乗せ販売を実現させる営業活動に対し、「アップセル」は、商談中の一つの製品に対して販売単価を上昇させる販売手法です。また、商談中の一つの製品に対して、販売単価を下げてでも注文を取りたい場合に使う手法が「ダウンセル」です。
Q3:クロスセルのメリットは?
クロスセルのメリットは、顧客契約単価の上昇、顧客から自社に対しての印象や認知度が向上、リピートビジネスにつながりやすい点で、うまく活用できれば、より自社の売り上げに大きな貢献となることでしょう。