SAPとは?ERPシステムの特徴や導入メリットをわかりやすく解説
ERPを検索する中で、SAPという名前を目にすることも多いのではないでしょうか。SAPとは、経営・業務の効率化のために多くの企業で導入されているERPサービスです。
本記事では、SAPの特徴(メリット・デメリット)や多くの企業で導入されている理由、2027年問題への対処方法を解説します。SAPのERP導入や移行を検討している方は、ぜひご参考ください。
SAPとは?
SAPはドイツの都市ヴァルドルフに本社を置くソフトウェア開発会社です。System Analysis Program Development(ドイツ語:Systemanalyse und Programmentwicklung)の頭文字をとって、社名が作られました。意味としては「システム分析とプログラム開発」になります。
SAPの読み方は「エスエーピー」です。「サップ」と呼ばれることもありますが、ドイツ語ではネガティブな意味を表すため「エスエーピー」と呼ぶようにしましょう。
1972年創業以来、世界中の1万2,000社の企業にERPパッケージを導入してきました。そのため、ERPパッケージ自体を「SAP」と呼ぶことも多いです。
SAP社が提供するERPとは
ERP(Enterprise Resources Planning)とは、企業経営の基本となる環境・資源要素(ヒト・モノ・カネ・情報)を適切に分配し、有効活用する計画=考え方を意味します。現在では、「基幹系情報システム」を指すことが多く、企業の情報戦略に欠かせない重要な位置を占めています。
ERPについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
参考:ERPとは?基幹システムとの違いやメリット、導入方法を解説
SAP導入のメリット
SAPを導入するメリットは以下の通りです。
グローバル企業への導入実績が豊富にある
SAPは国内・国外のさまざまな業種の企業に導入されており、全体で1万2,000社が導入しています。また、海外だけでなく日本国内だけでもおよそ2,000社程度のユーザーがSAPを導入しています。
たとえば、味の素株式会社はデータドリブン経営を目指し経営情報分析基盤を構築するためにSAPを導入しました。
オムロン株式会社は人材管理の基盤を作り従業員エンゲージメントを向上させる目的でSAP を導入しています。大企業だけでなく中小企業でもSAPが導入されており、さまざまな業種・業態で使えることが魅力となっています。
標準機能が充実している
SAPは標準機能が充実しています。世界中で1万2,000社がSAPを導入していますが、各国の法制度・商習慣に対応できて、グローバルビジネス展開する企業の課題を解決できることが魅力となっています。
また、アプリを活用すれば、会計や資材管理だけでなく、購買や経費精算など業務領域を補えます。
好みのインフラを選択できる
SAPではオンプレミスとクラウドのインフラを選択できます。2つのインフラの違いは以下の通りです。自社の要望に合わせてオンプレミスかクラウドかを選べることが魅力です。
オンプレミス | クラウド | |
特徴 | 自社でサーバーを保有する | クラウド上のサーバーを利用する |
コスト | 初期費用が高い | 初期費用が安いサービス利用料がかかる |
カスタマイズ | 無制限 | サービスの範囲内 |
保守管理 | 自社対応 | サービス提供者が対応 |
拡張性 | 機能の追加費用が高い | 機能の追加費用が安い |
SAP導入のデメリット
「SAP」の導入を検討するにあたって、デメリットも同時に見ておきましょう。
導入費用が高い
SAPにはさまざまな業種・業態の企業が利用できるように豊富な機能が搭載されており、その分、価格が高めです。社員数の少ない中小企業でも3,000万円程度の導入費用がかかります。
クラウド版の初期費用は上記より低くなるものの、サブスクリプション費用がかかるため長期運用する場合には高額になります。
また、SAPをカスタマイズする場合も、カスタマイズ費用が高額となり、コストが高いということがデメリットとなっています。
システムの操作が難しい
SAPを活用すれば、経営資源の管理がしやすくなったり、経営戦略が立てやすくなります。その反面、機能が豊富で操作が複雑なため、利用が難しいと感じることがあります。
また、SAP導入をベンダーに任せきりにすると、SAPを導入する目的が共有されず、自社が作りたいシステムとの乖離が生じます。そのため、ベンダーと話し合いながら、自社が求めている機能を導入してもらい、SAPの操作方法についてレクチャーを受けるようにしましょう。
SAPへの理解が必要
SAPは非常に多機能なため、あらゆることが実現できると考えてしまいがちです。しかし、当然ながらSAPにもできること、できないことがあります。そのため、ERPの導入目的がSAPで実現できるかどうかを吟味しましょう。
SAPの主な機能一覧
SAPの主な機能には、以下のようなものがあります。
SD(Sales and Distribution) 販売管理用モジュール |
販売・在庫・物流部門の情報をリアルタイムで共有して業務を効率化する |
MM(Material Management) 在庫購買管理用モジュール |
在庫管理機能と資材やサービスの購買から発注、入庫などの購買と調達のプロセスを管理する |
WM(Warehouse Management) 倉庫管理用モジュール |
出庫、入庫をはじめ倉庫内での在庫数を管理する |
PP(Production and Planning) 生産計画、生産管理用モジュール |
生産計画から製造指図など製造業務を効率化する |
PM(Plant Management) プラント保全用モジュール |
検査・予防保全・修理の3つの主な機能により、工場や各種プラントにおける設備のメンテナンスをサポートし、安定稼働を支える |
HR(Human Resources) 人事管理用のモジュール |
採用活動から労務管理、人事考課や人材育成業務、組織管理業務など人事管理業務を効率化する |
PS(Project System) プロジェクト管理用モジュール |
長期にわたる工事の設計および調達、建設などの工程管理から原価や売り上げの管理を行う |
FI(Financial accounting) 財務会計用モジュール |
決算書の作成など財務会計の処理を行う |
CO(Countrolling) 管理会計用モジュール |
部門やプロジェクトなど社内の原価管理を行う |
RE(Real Estate) 不動産会計用モジュール |
不動産の種類や運営形態に合わせた管理業務を行う |
IM(Invest Management) 設備予算管理用モジュール |
研究開発が成果を上げたりするまでの投資予算と設備実績の管理を行う |
CA(Cross Application) クロスアプリケーション用モジュール |
各機能を同時に使用する |
SAP社が提供するERPの種類
SAP社が提供する主要なERPソリューションには、以下の4種類があります。
SAP S/4HANA
SAP S/4HANAは、SAP ERPの後継製品です。2016年5月に開催されたSAPの年次イベントで、リリース後の1年間で3,200社がSAP S/4HANAを採用し、SAP史上最速のペースで拡大していると発表されました。
インメモリデータベースSAP HANAを基盤としているため、従来のシステムより高速にデータの読み書きができます。
リアルタイムの経営状況を把握できるだけでなく、異なるデータを組み合わせて分析することも可能です。また、ガバナンスやセキュリティ強化にも有効なシステムとなっています。
オンプレミスやパブリッククラウドなど、お好みのインフラが選べます。
SAP S/4HANA Cloud
SAP S/4HANA Cloudは、SAP S/4HANAのクラウドサービスです。
クラウド型ERPのため、ネットワーク構築を見直したり自社サーバーを調達したりする必要がありません。そのため、初期コストを最小限に抑えられます。クラウド型ERPのため、本社と支社のデータ連携などが容易に行えることもメリットです。
コストが安いだけでなく、SAP S/4HANAの機能が利用できるため、予測分析による経営の意思決定や、AIでの業務自動化ができます。
SAP Business ByDesign
SAP Business ByDesignは中堅企業向けのクラウド型ERPです。Base Package、Self-service user、Team user、Enterprise userの4つのプランから選択でき、さまざまな機能を組み込みやすくなっています。
SAP Business Oneより機能が豊富で、選択するだけでカスタマイズできるため、ビジネスに必要な機能が搭載されているERPを簡単に導入することができます。
SAP Business One
SAP Business Oneは中小企業向けに提供されているクラウド型ERPです。ビジネスに使う基本機能(管理会計、外貨管理、経費精算、在庫管理、販売管理、BIツール)が提供されています。
また、27の言語に対応しているため、グローバル展開を目指している企業に導入されています。SAP Business Oneは無料トライアルが提供されているため、気になる方は体験してから導入すべきか判断するようにしましょう。
SAP「2027年問題」への対応方法
日本で2,000社以上が導入しているSAP ERPの保守サポートは2027年12月に終了します。もともとは、2025年に保守サポートが終了される予定でしたが、多くの企業が影響を受けるため2027年まで保守期間が伸ばされた事情があり「旧2025年問題」とも呼ばれます。
この問題により、SAP ERPを利用している企業は、2027年までにERP刷新しなければいけません。最新のSAPを導入すれば、IoT、AI、RPAなど新しい技術を取り込んでDX推進を加速し、企業競争力を上げていくことが可能です。
ここでは、2027年問題への対応方法をご紹介します。
SAP S/4 HANAに切り替える
1つ目が、SAPの次世代ERPのSAP S/4 HANAに切り替える方法です。
SAP S/4 HANAは既存のSAP ERPを引き継ぎながら、新インターフェース「SAP Fiori」を標準で搭載しています。SAP Fioriのメニューから使いたいアプリを選ぶだけで操作ができるようになるため、SAP ERPよりも使い勝手が良くなります。従業員も操作に迷わずに利用できるでしょう。
SAPをカスタマイズする必要があるため、カスタマイズ費用が負担となったり、データ移行の手間がかかるといった難点はありますが、高機能なSAPを気に入っている場合は、さらに機能が充実しているSAP S/4 HANAに切り替えることをおすすめします。
サポートベンダーの保守サービスを利用する
既存のSAPを使い続けたい場合は、サポートベンダーの保守サービスを利用しながら使い続ける方法もあります。サポートベンダーの保守サービスは料金が安いです。ERPを再構築する必要もないため、余計なコストがかからないことがメリットとなります。
しかし、会計や人事などの法改正があった場合、システムが使えなくなるおそれがあります。その都度、メンテナンスをしなければならないため、コスト負担が重くなってしまうでしょう。また、IoT、AI、RPAといった新しい技術を取り込むことも難しくなります。
代替製品への乗り換えを検討する
SAPではなく、代替製品に乗り換えを検討するのも1つの方法です。自社に見合ったERPに刷新すれば、コストを抑えられたり、生産性向上が見込めたりするでしょう。現在の業務に見合ったERPを再構築できることが最大の魅力です。
しかし、ゼロベースから構想を練り、要件定義を重ねていかなければいけないため、導入まで時間がかかります。また、SAP刷新よりもコストが膨れ上がってしまうおそれがあります。さらに、従業員が新たなERPの操作方法を学ぶコストもかかります。
ERPの活用で企業DXを推進
SAPは世界中で1万2,000社が導入しています。標準機能が充実しており、各国の法制度・商習慣に対応できて、グローバルビジネス展開する企業の課題を解決できることが魅力となっています。
また、アプリを活用すれば、会計や資材管理だけでなく、購買や経費精算など業務領域を補うことも可能です。最新のSAPを導入すれば、IoT、AI、RPAなど新しい技術を取り込んでDX推進を加速し、企業競争力を上げていくことが可能です。DXを加速させることができるため、ぜひ興味がある方は社内のERPを見直してみてください。
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